人気ブログランキング | 話題のタグを見る

懐かしのピンネシリへ

 久しぶりNさんと山登りをしたいと思い連絡を取ると、あまり時間に余裕がないとのこと。そこでNさんの所から近いピンネシリを久しぶりに登ることとなった。この山は空知に勤務していた頃、晴れると樺戸山系の中で、マチネシリとともに穏やかな丸みを帯びた山影でなじみ深い山だった。その頃は身近な山としてそれほど特別な思いはなかったが、札幌に移ってから、たまたま登った浦臼山から見た、まだ雪を戴いた山の雄姿がなんとも格好よく見えた。たぶんの他の人もそうだと思うが、自分の場合も他の山から見た時の山の姿に憧れて登ることが多い。
ただその山に登った時には、当たり前だがその山自体の姿は頭の中以外では見えないのだが。あの格好のいい山の姿の一部として、今自分がいるのだというのがうれしいのである。
 道民の森の一番川からのルートもあったが、登山道までの4キロほどの林道が通れないとのこと。歩けない距離ではなかったが少し時間が長くなってしまい余裕がなくなるということで、昔からある砂金沢のルートから登ることにする。
 久々に朝早く札幌の街を出る時には、もう台風の影響なのか厚く暗い雲が空を覆い始めていた。その雲から逃げるように北に向かうと少しずつ晴れ間が多くなって気持ちが明るくなる。奈井江の街を過ぎるとすっかり空も晴れ上がり、もうすっかり頭を垂れ、収穫をまじかにした稲穂の彼方にピンネシリの姿も見渡された。


懐かしのピンネシリへ_b0366555_16314987.jpg


 ただいつまで天候が持ってくれるのかが少し心配だった。また果たしてこの台風で稲は無事に収穫されるのであろうか、農家の人は気が気ではないだろう。
 砂川から新十津川に入り、地図を見ながら登山道に至る道をたどっていると、見慣れた車が路肩に止まっていた。Nさんが待っていてくれたのだった。ここからの林道は大変だから一台に乗り換えていきませんかという。自分は林道には慣れていたので、大丈夫と言ってNさんの車のあとを付いていくことにする。
 あとを付いていくと踏み固められた砂利道はしっかりしていたが、何しろ車一台分の狭まさ。並行して川が流れていて路肩から落ちないように気を付けなくてはならない。対向車が来たら退避場所まではかなりの距離がある。これなら大水になれば一気に流されそうな道だ。一人できたら果たして、登山口に着くのか不安になるような道だ。まだ続くのかと思いながらなんとかNさんに付いていくと、やっとのことで登り口の広い駐車スペースに着いた。この林道がなければ登るのには随分苦労することだろう、見かけによらず奥深い山だと感じさせる。そしてそこにはまだ止まっている車はなかった。この連休の中日に誰も登山者がいないのか不思議だ。


懐かしのピンネシリへ_b0366555_16325849.jpg


 ここから先の林道はゲートがあって車は入れないようになっているという。そこからは舗装されて頂上のレーダーまで道がついているとのこと。確かこのレーダーは石狩川流域の雨量を測定して、石狩川の水量をコントロールためのものと聞いて感心した記憶がある。そうしてまで何とか石狩川の洪水を防ごうとしていたという開拓当時からの苦心の跡が伺える。これだもの、どんなに細くともしっかりとした道がついている訳である。もしこのレーダーが働かなくなれば、石狩川周辺に暮らしている住民の生活に直結するのだ。ただの登山者のための道ではない。お陰で登山者もその恩恵に預かれるという訳である。一昨年の台風で、十勝の登山道に至る多くの林道がそのままになっているのとは大きな違いだ。
 9時少し前に準備を終えて林道の脇にある登山道に入る。これまでの色々な四方山話をしながら登るのは楽しく、あまり苦労を感じない。また登山道も多少のアップダウンはあるが、全体的になだらかな散策路とでも言っていいような幅広い道が続く。そろそろ木々は葉を落とすものもあるが、まだ紅葉というほどではない。途中先ほどの林道の続きの道路と交差したが、確かにきちんと舗装されていた。雪の降り始めの時期にピンネを見ると、この道路がピンネシリを斜めに何巻きか横断していて、それがソフトクリームのクリームを巻いているように見えたのを思い出した。
 車で山頂まで行けるというのは少し興ざめなところもあるが、登山道自体はしっかりと笹狩りなどもしてあってよく整備されている。
それにしても周囲は随分丈の高い笹で、これを藪漕ぎしたら大変だろう。Nさんによれば時期が良ければタケノコが取れるとのこと。さもありなん。
 登り始めていた時は晴れ渡っていた空を、次第に暗い雲が覆い始める。これは天候が悪化してきたということだろうか。
 しばらく行くと少し小高いところから浦臼からクマネシリに至る山並みが見える。この春は向こう側からこちらを見ていたのだと思うと、これがまたおもしろいところだ。今日はこちらを見ている人がいるだろうか。

懐かしのピンネシリへ_b0366555_16335801.jpg


 ここからマチネシリのすそ野をトラバースしながら、マチネシリとピンネシリの鞍部(コル)へ向かう。ここからは少し今までとは違い、急斜面や、笹が残っていたり、濡れた岩や倒木などが現れて山らしく歩きにくい道になる。それでも少し行くと、木の間からピンネの姿がやっと現れて歩が進む。まだ山頂は見えているようだ。自分たちが着くまで、なんとかもってくれますように。

懐かしのピンネシリへ_b0366555_17082692.jpg

 鞍部(コル)に着くと一気に視界が開ける。目の前に立ちはだかるピンネの山塊と、それに続く道を見るととても大きく見え迫力がある。また石狩平野に遥々続く山並み、そしてすぐ脇にはマチネシリに登る道。それなりのものだと思う。


懐かしのピンネシリへ_b0366555_16355329.jpg

懐かしのピンネシリへ_b0366555_16363558.jpg

 Nさんがマチネシリまで行ってみるかというので付いて行ってみる。考えてみるとマチネシリはまだ遠くから眺めただけで、行ったことがなかった。そのなだらかな稜線はこれはこれで魅力的に見えた。笹の原の間を縫っていくと、時々風にさらされる部分があって、もう吹き抜ける風は冷たい。もうじき冬になると日本海からの風をまともに受けるのだろう。けれども山頂まではそれほどの道のりではなかった。この高さでも頂上1002メートルの表示。2メートル余計だった。浦臼の山を越えて空知平野が見渡される。その向こうには芦別や夕張の山並みが黒くかすかに見えるようだ。平地の田野ではまだ晴れているのか、黄金色に明るく輝いている。

懐かしのピンネシリへ_b0366555_16371384.jpg

 さあここから引き返してピンネシリの最後の登りだ。吹きさらしの風が冷たいのでウィンドブレーカーを着る。目の前に見たピンネの大きさから多少登りの辛さを覚悟したが思ったほどではなかった。

懐かしのピンネシリへ_b0366555_16394303.jpg
最後の登り

懐かしのピンネシリへ_b0366555_16435995.jpg
先ほど登ったマチネシリへの登山道が見下ろされる

懐かしのピンネシリへ_b0366555_17055289.jpg
新十津川の方角

懐かしのピンネシリへ_b0366555_16391881.jpg


 美瑛岳の登りでは見た通りのしんどさだったが、何かの目の錯覚なのだろうか。木道の急坂を超えると間もなくレーダーの白い球形が見えて、12時を過ぎて山頂に到着。マチネシリに寄った分を差し引けばなんとか3時間というところだ。山頂にはやはり誰もいなかった。曇り空で吹きすさぶ風が冷たかったが、まだなんとか周囲の眺望は見せてくれていた。今まで隠れていた神居尻の山小屋に陽が当たっている。昨年はそこから雲間にピンネを望んだかその時も大きく見えた。遠くの署寒の山並みはもう既に雲に隠されているようだ。

懐かしのピンネシリへ_b0366555_16404188.jpg

懐かしのピンネシリへ_b0366555_16421515.jpg

 風が強いので山陰のレーダーの脇で昼食をとる。自分は最近は、もうほとんどガスコンロを持ってくることはなく、握り飯とお茶で間に合わせているが、Nさんはいつもちゃんとコンロ持参でお湯を沸かしている。自家農園のおいしいミニトマトとカップ麺を分けてくれる。やはり山頂でのこの暖かい食べ物は格別だ。食事をしていると、二人の登山者が舗装された道を上がって来て頂上に向かっていった。わざわざ車道を登って来る人がいるのには驚いた。人それぞれだ。Nさんによるとこの道ではマラソンも行われるという。そんな話をしながら自分としては珍しくゆったりと山頂で食事を取った。
 1時すぎ、ピンネを降り始めると、漸く夫婦なのか二人の男女が登ってくるのとすれ違った。ということは本日の登山者は自分たちを含めて6人ということか。随分静かな登山であった。山を下りていくと次第に秋らしい暖かな陽射しが戻ってくる。その道をのんびり降りていくと、いかにも長閑な秋の山道という風情が漂っている。これが紅葉したら随分鮮やかだろうな。

懐かしのピンネシリへ_b0366555_16413215.jpg
 登り口の駐車エリアに到着したのは3時を少し過ぎていた。下りは2時間ほどということか。
 帰りに寄った新十津川の温泉は結構訪れる人があって安心する。連休だから当然と言えば当然だが、この空知にある温泉は過剰と言ってもいいほどの数で、中には廃れているところも結構あると聞く。風呂から上がって一息ついてピンネの方を見ると、もう既に山頂はすっかり雲に隠されていた。

by kimamani-outdoor | 2017-09-17 22:51 | 山歩き