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道東 記憶をたどる旅 一

 人生の未来よりも過去の方がずっと長くなって久しい。するとどうやら過去の方にばかり関心が行くようになるものらしい。昔、懐メロなるものがあって年配の方が古い歌謡曲などを歌ってしきりに感傷的になっているのを見て、自分はああはなるまいぞと思っていたのだが、やはり年を取ると同じ道をたどるものらしい。過去の釣り場の記憶が懐かしくて仕方がない。
 その中でも西別川は根室在住のころホームグラウンドとして良く通った川だ。大物が釣れた記憶はあまりないが、その川での釣りを通じてフライフィッシングについての知識を育んでもらった川として特に愛着が深く、ぜひ再び訪れてみたかった。

 というわけでに2日朝、前夜に結構な地震があって戸惑ったが、意を決して釧路に向けて出発する。
 途中昨年台風で被災した南富良野の街を訪れたが、街並みや道の駅は無事復活して安心したが、水槽に泳いでいたイトウはサイズもダウンしてどこか元気なさげに見えた。

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 河川に至っては依然橋が落ちたり堤防が崩落したりしていて工事も半ばのようで、台風の爪痕がまだまだ感じられた。これではまだ釣りは厳しそうだし、ラフティングもやりづらいのではなかろうか。
 途中あれほど通った狩勝峠。土産物屋は閉店。小高いところに作られていた展望台が寂しかった。日勝峠を通った時にも感じたのだが、ほとんど車の流れは既に高速の方に移行したのであろうか。
 清水の街を過ぎ御影に近づくと以前通った戸蔦別川のことが懐かしく思い出される。透明なプールにライズするニジマスを狙って、いつもドキドキさせられた。この川もやはり昨年の台風の影響を受けたであろうか。
 帯広や幕別でかつて自分の住んでいた辺りを見回ってみたが、三十年近くの月日の隔たりは大きく、なかなか見知った建物は見つけられなかった。ただ当時からあったニッタベニヤの工場がまだ残っていたのには驚いた。古いコンクリートの建物の屋上には木々が育ち、まるでジプリのラピュタの世界を見せられたようで心を惹かれた。

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 寄り道したためか目的地の白糠の道の駅に着いたときはもうすっかり夕方近くになっていた。それまで多少は晴れ間のあった空が、深い霧の中に閉ざされいよいよ釧路の地が近づいたことを感じさせた。浜のにおいがする中、今夜はここで一泊させてもらうことにする。コンビニがすぐ隣に併設されているのが有り難い。ここで明日釧路の実家に戻ったFさんと待ち合わせて釣りに行くことになっていた。昨年群別川や箸別川で一緒に釣ったことが懐かしく思い出される。

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 翌日朝も多少霧のかかった同じような曇天。これは今の時期の道東では普通のことなので気にはしない。雨が降っていないだけでありがたかった。その中をFさんはいつもと変わらぬ姿を現した。まだ実家での新しい生活の準備中といったところのようだ。
 今日は餌釣りのFさんのことも考えて、少し戻る形になるが茶路川を釣ってみることにした。自分は初めてだがこの地出身のFさんには旧知の川のようで昔の釣ったポイントのことをしきりに語っていた。国道から少し入るとさすがに道東の川で、景色はすぐに山間の牧草地に変った。道はその中を時折川と交差しながら茶路川上流に向かっていく。しかしいつまでたってもFさんの知っていたポイントらしい景色は現れなかった。考えてみればずいぶん昔のことでこの辺りの様子も随分変わったに違いない。仕方なくここぞというようなポイントを探して入渓することにした。それにしてもいくら平日とはいえ、ヤマメの解禁からまだ三日目というのに、釣り人の姿が全く見えないのはやはり道東であることを実感させた。
 準備をしていよいよ橋から川に入る。下流からたどってずっと川を見てきたが、どこも砂地の河原が広くあり、水量もそれほどなく釣りやすそうな川だ。

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 とはいえ初めての川は最初の魚の姿を見るまではいつも不安だ。トビケラの毛ばりを結んでキャストするとさっそく小さな反応がある。来た!と思って合わせるが鈎掛かりしない。あれ、小さいのかな、いたるところ当りはあるのだが何度やっても同じだ。Fさんも同じく苦戦しているようだ。それでもその当りに集中して合わせるとやっと小さなヤマメが鈎掛りしてくれた。このサイズかぁ、それでも最初の一匹が釣れて少しほっとする。今日はキャッチアンドイートなのでFさんの魚籠に入れてやる。

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 少し慣れて次々に釣れるようになるが皆同じようなサイズだ。時折これも同じようなイワナが混じる。まぁこのサイズでも釣れてくれて有り難い。

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 多少深めの流れてやっと20弱のヤマメが釣れて竿をしならせてくれる。これだけヤマメが多いのもやはり道東ならではだな。
 Fさんはじっくり釣るタイプなので遅れるが、やがて川にも慣れて順調にヤマメを釣り上げているようだ。しばらく行くとここぞというようなポイントで、同じようなサイズが何本も釣れるようになる。次々と当りがあるのを攻略していると、それほどの距離を行かないうちにFさんと合わせてもう十分な数のヤマメやイワナが釣れてくれた。

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 さてどうしたものか、さらに下流を釣ってみるか、それとも別な川に行ってみるか。Fさんが音別川に行ってみたいというので付き合うことにする。それに釣った魚をそろそろ捌かなければならない。音別川は以前初冬のころ河口付近でアメマスを釣ったことはあるが、この時期、しかも上流域は初めてだ。この川も道沿いに流れているが、牧草地は多少茶路よりは広めでゆったりとしており、渓相は茶路川と似ているがこちらも少し広めで多少水量も多そうに見える。

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 牧草地横の橋に車を止めて川に向かう。Fさんが魚の腹を取っているので自分はその間、橋のたもとの深みのいかにもポイントらしいを狙ってみる。するとまぁまぁのサイズのヤマメが次々と同じところから釣れる。これ以上Fさんの仕事を増やさないように魚はリリース。Fさんは少し恨めしそうだ。途中橋の上からトラクターに乗った牧場主らしき人が、興味深そうに人懐こく話しかけて来る。ヤマベ釣れるかい、どんどん釣れますよと言って毛ばりを投げるとそっそく鈎掛かりして、それを見てほぅというような顔をしている。こんなにいい川が傍にあっても牧草の刈り入れでそれどころではないのだろう。
 なかなか魚の捌きが終わらないので自分は少しの間釣り下ってみる。すると茶路川よりはいいサイズが次々釣れてやはり川の許容量の大きさに驚かされる。秋になるとこのサイズの川に大きなアメマスが遡上してくると思うとワクワクしてくる。


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 もう川の様子は十分わかったと戻ってみるとFさんはまだ魚を捌いていた。仕方なく自分も手伝うことにする。鰓を取ったり、背骨の血合いを洗ったりするのはやはりちょっと苦手だなぁ。
 結局Fさんは竿を出さず仕舞。川の様子が分かって良かったと言っていたが。

 自分はFさんと別れて、白糠から今日のうちに根室手前の風連湖の道の駅まで車を走らせることにする。Fさんもこちらの川を釣ってみたいと言っていたので後から来るかもしれないとのこと。いつもこの釧路の街をいかに早く抜けるかに苦労していたが、今は大楽毛からバイパスのように無料の高速道路が走って一気に東釧路まで抜けてくれる。うれしいような、ちょっと釧路の街並みが見られず寂しいような。
 厚岸の街を抜けると、夕暮れの中に一気に別寒辺牛の湿原の世界が繰り広げられる。昔この別寒辺牛川を友人とカヌーで上って沈して、凍える思いをして下って来たのを思い出す。今はきちんとカヌー乗り場が整備されているのを見ると昔日の感がある。
 厚床のコンビニで夕飯とビールを仕入れる。自分がいた頃はこんなところで弁当やアルコールは買えなかった。有り難いことだが単純に喜んでいいものやら。白鳥台の道の駅に着くころには、辺りはすっかり闇に閉ざされていた。

by kimamani-outdoor | 2017-07-03 20:10 | 釣り